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村口きよ女性クリニック

女性の身体についてエッセイ集

論壇 (6)

(平成18年1月28日から河北新報「論壇」に掲載 全6回)

ジェンダー/共生社会へ理念浸透を

 昨年12月、改定予定の男女共同参画基本計画に「ジェンダー」(社会的、文化的に形成された性別)の用語を残すかどうかをめぐり、政府部内で意見の対立が起こった。最終的に、新計画では「社会的性別(「文化的」を外す)」と短く表現し、「社会的性別は、それ自体に良い、悪いの価値を含むものではない」と明記する方針との政治的決着が図られた。何とも歯がゆい、承服し難い結末となった。
 ジェンダーは国際的に既にコンセンサスを得た概念であり、「男は仕事、女は家庭」といった従来の役割意識を見直し、その反省に立ち、それぞれが個性を伸ばし男女共生社会を目指し、21世紀を展望しようとの国際的潮流である。
 私が「論壇」で一貫して問題にしてきた「性の健康」を目指す分野でも、ジェンダーは重要なキーワードである。
 2000年に、パンアメリカン保健機構と世界保健機関は世界性科学学会と協働して「セクシュアル・ヘルスの推進、行動のための提言」を発表した。提言は、その中でセクシュアル・ヘルスに対する障壁を排除するための戦略の一つとして「ジェンダーの平等・公平を増進し、ジェンダー差別を解消する」と述べ、ジェンダー間の力関係を問題にすることなしにその達成はない—と明言した。
 前世紀後半から国連主導で展開されてきた男女平等を目指す運動が日本社会に果たした役割は大きかった。日本は女性差別撤廃条約に批准し、家庭科共修の導入、男女雇用機会均等法等一連の法整備を終え、その集大成として99年男女共同参画基本法を成立させた。この間、出産などのため離職を余儀なくされることで女性就労者数の年齢構造が「M」字型のカーブを描くM型労働形態、さらには派遣などの不安定雇用の増加などさまざまな問題をはらみつつも、女性の社会参加は決定的流れとなった。
 一方で日本経済の慢性的停滞・不況により男性主導の社会・経済構造に亀裂が生じ、男女の生き方の変換を一層促進することとなった。今日、男女平等への意識は着実に国民に広く浸透しつつある。
 国立女性教育会館が行った「女性学・ジェンダー論関連科目調査(05年度)」によると、全国大学・短大の56%が同科目を開講している。ジェンダー学は重要な社会科学の一分野であり、不可欠な教育科目との認識が深まっている。
 私も、宮城県内の私立短・大学で15年前から「女性論」「両性論」を担当してきた。学生たちの多くはジェンダーという用語こそ知らないが、彼らの男女平等意識の形成は着実に進んでおり、まさに時代の流れを実感させられる。
 私のクリニックは未婚女性の受診が多く、パートナーの同伴も多い。妊娠中絶手術の際には、5割がパートナーの同伴であり、彼らは待っている間に自由記載ノートに心の内を書き残していく。「まず彼女に謝りたい…」「彼女とは性行為や避妊については、よく話し合っていたつもりでしたが…」など。「性の健康」は男女の関係性の問題であり、こうした局面を共有できる若者が増えてきたことはとてもうれしい。私的領域とはいえ、ジェンダーバイアスの解消の流れは明らかに見て取れる。
 ジェンダー平等の理念は、先人たちの成果であり歴史的到達点である。「ジェンダー解釈」の変更は、日本の政治的保守主義者の時代錯誤と言うべきである。日本社会は、既に男女平等へ向けて確かな歩を進めている。

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