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村口きよ女性クリニック

女性の身体についてエッセイ集

「オンナの「性」ってナニ? (5)

(平成5年6月から河北アルファにて連載 全6回)

更年期からが女性の正念場

 突然息苦しくなって、手足が動かない、声が出ない、「ああ死んでしまう」と言って、更年期の女性が救急車で飛び込んできました。ストレスによって一時的に過換気症候群を引き起こしたのです。翌日にはすっかり元気になりましたが、更年期障害の病名がつきました。

発汗、めまい、頭痛…

 更年期は強い性を誇ってきた女性にとって、まさに青天のへきれき、正念場の時かもしれません。卵巣の老化とともに強い性を支えてきた女性ホルモンの分泌が急速に減少します。月経が不順になり、やがて閉経が訪れます。卵巣一性中枢の調節糸の変調は、二次的に性中枢と隣接する自律神経中枢の失調を引き起こします。人間は自律神経によって内臓、腺、血管などの生命活動を自動的に調節しています。その失調は体のほてり、発汗、めまい、頭痛などさまざまな症状を起こしますが、その病的状態がいわゆる更年期障害です。

 子宮筋腫、子宮内膜症、子宮がん、卵巣がん、膣粘膜の萎縮による膣炎など性器の病気もめっきり多くなります。女性ホルモンの欠落はコレステロールや骨の代謝にも影響し、全身性疾患の素地にもなっていきます。動脈硬化に起因した心疾患の発生頻度は3倍にも跳ね上がります。体にだるさ、ふしぶしの痛みを感じ、骨粗しょう症に発展していくかもしれません。更年期を境に女性の体はその根幹から揺らいでいきます。適量のタンパク摂取、カルシウムの補充、低コレステロールの食事、適度の運動など科学的な対応策が求められます。。

自分のための生き方を

 更年期の問題は、身体上のこともさることながら、根はもっと深いところにあるようです。「美しく、若い女性」に価値を置いて作られた性の文化は女性の老いに追い打ちをかけます。「男は仕事、女は家庭」の役割意識に忠実に生きてきた女性ほど、つらく、苦しい葛藤の日々が始まるかもしれません。子どもの自立、仕事・付き合い優先の夫…。「空の巣症候群」などの汚名があるほど、女は孤独と喪失感に打ちのめされるかもしれません。いままでの価値観、人間関係のあり方、生き方そのものが危機に見舞われるのです。

 女性はあまりに人のために生きることを求められ過ぎたとは思いませんか。いつの間にか自分のために生きるということを見失ってしますほどに−。すっかり根を張ってしまった生き方を軌道修正し、自分のために生き始めるのは、とても大切なことかもしれません。

 でも今、このハードルを乗り越えることができれば、更年期からこそが女性として最も充実した時と言えます。妊娠の不安、生殖の負担はもうありません。生活基盤が安定していれば、ゆとりを持った自分のための時間設計が可能です。おまけに、まだ30年も生きられると思えば、もっと何かをしたいというファイトだって湧いてきます。病気だけでなく、「健康にも強い女」として日々をおう歌するのはこれからなのです。

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