(平成5年6月から河北アルファにて連載 全6回)
「女として幸せですか」と問われたら、どう答えられるでしょうか。最終回は、「性と健康」を考えてみたいと思います。中年の女性に「(ご主人との)セックスはどうしてますか」
と聞くと、「(主人は)もう来なくなったんだから」「主人はもうあんたに貸してもらえなくなったって言うんですよ」・・・などと、ギグッとするような返事が返ってくることがあります。二人にとっての性愛は、いつも夫からの一方通行だったということで、妻もずうっとそういうものだと思ってきたということです。
産婦人科という医療現場にいると、男女の性愛の姿がすっかり見えてきます。「女も男も幸せじゃないなあー、なぜかかみ合っていないなあー、見えていないなあー」、最近そんなふうに感じてしまうことが多くなりました。エイズのまん延が心配されるほど男女の性愛は氾濫しているのに、一方では「(夫婦の)セックスレス現象をどうとらえるか」が真剣に議論されているのが昨今の状況です。唯一市民権を得ている夫婦の性が、今、酸欠状態にあるということでしょうか。再生の道を探っていけるでしょうか。長い間「恥ずべきもの」「陰湿なもの」として抑圧し続けられてきた性が、ようやく白日の下で議論されるようになったのですから、より人間らしい性に近づいてきているのかもしれません。
性の科学の著しい進歩によって、性は男女間に決定的違いがないことも分かってきました。生殖能力はともに思春期に完成します。男性は精通を迎えると「性は快感である」と実感し、自然成長的に性の快楽・オーガズムを知りますが、女性は性を体験しながら、潜在していたオーガズム・エロスの世界に気づき、魅せられていきます。共に「開かれた性、成熟していける性」で生きていけるかが問われているということでしょうか。
近年、産業構造の変化、女性の社会参加、教育の浸透、高齢化社会の進行・・・によって、男女関係・生き方も確実に変わりつつあります。定期的に仕事を持つ女性が5割を超えたということで、女性も自分らしい生き方を模索していく時代になってきました。自分らしい生き方は、自分で感じながら、発見していく性へのエネルギーを生み出していくことでしょう。男女の再生への道を開くためのキーワードは、「コミュニケーション」以外には考えられそうにありません。「働きかけ、求め合える生と性を・・・」、女性の健康は、そうした広い視野の中できっと確かなものとなっていくことでしょう。