(平成11年10月4日から毎週月曜 河北新報にて連載 全10回)
わが国で、思春期女子の初経の若年齢化が戦後急速に進みました。
今日、思春期女子の95%は14歳までに初経を見ています。しかし一方で、15歳を過ぎても月経が来ない女子もおり、このことは医学的、社会的問題を提起しています。
18歳までに月経がない場合は「原発無月経」といい、月経が来る仕組みに重大な障害があることも少なくありません。月経の来るのが遅れ、16歳から18歳までの間に来た場合は「遅発月経」といいます。
性成熟過程は個人差があり、特別の誘因もなくスローペースで進行する人もいます。そうした場合はあまり心配ありません。しかし最近では、思春期を取り巻く環境が大きく変わり、性成熟過程が順調に行かない、さまざまな問題が起こっています。
「まだ月経が来ない」とのことで、高校1年生が来院しました。身長の急な伸びが小学6年ごろにあり、乳房の膨らみも中学1年ごろに気付いたそうです。中学から陸上部に入り、長距離走の選手として毎日練習し、「1日10キロぐらい走る」ということでした。
二次性徴は正常で、血中ホルモン値は卵胞ホルモンがやや低い値だったほかはすべて正常でした。陸上選手としての生活は高校3年生の6月まで続き、ようやく初経が来たのは、高校卒業を控えたころでした。
「初経が遅れている」とのことで精神科医から紹介された中学3年生が受診しました。彼女は小学6年の4月から「拒食症」の治療をしてきました。症状が出たのは小学5年のころで、最低30キロまで体重を減らし、入院管理になった経過がありましたが、来院時の体重は45キロまで回復していました。両親、特に母親への不信感がきっかけで発症しました。
「中学1年ごろから周りの友人が初経を迎え、自分も待っていたのに全然来ない。ずっと気になっていた」と訴えます。極端な体重減少と得意な精神障害とが、性成熟を大幅に遅らせてしまったのです。初診6ヵ月後に待望の初経がきました。
初経が来るときの体重は年齢にかかわらず約43キロとほぼ一定です。すなわち、初経を迎えるには、ある一定以上の体重が必要なのです。思春期女子の体重増加の大きな部分を体脂肪が占めることから「初経が来るためには一定の体脂肪が必要」と言えます。
一定の体脂肪維持は、性機能がその後正常に発達するためにも不可欠です。女性の身体における体脂肪の意義は、女性らしい丸みを帯びた体形を表現するためばかりではありません。
拒食症の例はもちろん、長距離走の選手だった女子の場合も、体脂肪の不足が「遅発月経」の大きな要因の一つでした。最近のダイエットの風潮など、さまざまな社会的状況が性成熟の開始・発達過程に影響を及ぼしています。次代を担う女性を救うための大人たちの知恵が求められているのです。