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エッセイ集

思春期外来「揺れる体と心」(5)

(平成11年10月4日から毎週月曜 河北新報にて連載 全10回)

(5) 回復するには時間必要 月経が止まる

 思春期の途中で「月経が止まってしまう」、いわゆる「続発無月経」は代表的な思春期疾患であり、思春期の月経異常のうち約30%も占めます。続発無月経とは「初経後2年以上経過していて、ほぼ規則的な月経になった後、3ヶ月以上月経がない状態」を指します。初経後2年ぐらいは月経が定まらない時期ですから問題にしません。

 続発無月経の誘因はさまざまです。大半が部活動、塾通いによる疲れや、友人・家族の人間関係による葛藤(かっとう)など、思春期特有のストレスが引き金になる場合と、ダイエットなどで体重が減ったことを誘因とする場合で占められます。
 そのほか、極端な肥満や独特の精神障害を伴って起こる拒食症(神経性食欲不振症)、まれに脳の腫瘍(しゅよう)などが原因のこともあり、容易に語り尽くせるものではありません。いずれにしても、卵巣が働いて月経を起こすための脳の命令系統が失調した結果、月経が止まってしまったものです。

 患者一人ひとりにとっては、「月経が止まる」という結果は同じでも、それぞれに違った紆余(うよ)曲折、青春のひとこまであり、ときに長いトンネルの入り口でもあります。

 月経が止まってしまったという小学6年生が受診しました。彼女は4年生のときに初経がありましたが、6、7ヶ月前からダイエットを始めたのが原因で、まもなく無月経になりました。体重も10キロ減らしていました。食べないことで祖母から口うるさく言われたために、ますます食べられなくなり、自分の部屋で一人食事をするようになっていたのです。
 「あんなふうにガミガミ言われたらわたしだって嫌です」と、付き添った母親までこう言う始末。「おばあちゃんが嫌いなの」と彼女に問いかけると、「いいえ」との返事でした。ずっと一緒に暮らしてきたおばあちゃんが嫌いなわけがありません。母親のこまやかな配慮もあって、まもなく一緒に食べられるようになり、食欲も徐々に回復、治療から1年ほどで月経が戻ってきました。

「やせて月経がなくなった」という高校2年生が訪れました。彼女はやけ食いとおう吐を繰り返す、いわゆる「食行動異常」でした。4ヶ月前から、スーパーマーケットでアルバイトしています。母親には反対されていますが、ほっとできる楽しいひとときだと言います。
 彼女は小学6年生から塾に通わされましたが、中学2年生でやめてしまいました。姉は大学に進み、兄は社会人と、二人とも家を離れ、今は両親との3人暮らしです。異常な食行動はしばらく続きましたが、少しずつ学校の成績も伸び、推薦で短大に進みました。この間、両親との話し合いを重ね、精神的にも成長し、2年半ぶりに月経が回復しました。

 続発無月経の回復には時間を要します。1,2年以内で半数、残り半数はさらに3,4年とかかるのです。月経がなかなか回復しないことで思い悩み、女性としての心の成熟に影を落とすことのないよう、励まし、力になりたいと願っています。

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