(平成11年10月4日から毎週月曜 河北新報にて連載 全10回)
月経の3日前ぐらいになると気分が落ち込み、いらいらして怒りっぽくなり、学校を休んだり、早退したりするという高校2年生の患者が受診しました。
こうした患者は「月経前症候群」と呼ばれます。これは1931年、精神症状、浮腫(ふしゅ)、てんかん、ぜんそくなどが周期的に月経前7から10日ごろに起こり、月経開始とともに症状が消えるという患者15例が報告されたのを機に、医学的に注目されるようになりました。
症状は、下腹部痛、腰痛、頭痛、目まい、吐き気、下痢、むくみ、乳房痛、などのさまざまな身体症状をはじめ、いらいら、怒りっぽい、憂うつなどの精神症状まで多岐にわたります。
これらの症状は「月経前苦痛」「月経前気分変化」「黄体期後期の不機嫌性障害」「月経前浮腫」などさまざまな呼び方をしてきました。しかし、その病態はいまだ不明な点が多く、「定義付けは不可能に近い」とさえ言われています。
昔から「女は子宮で思考する」とからかわれてきましたが、女性にとって月経周期の後半は「点滅赤信号」と心得ておくべきなのでしょう。
この時期をどう乗り切るか。大人ともなれば、いろいろ知恵もついてきます。ある女性は月経前は腰が痛み、乳房も張って痛くなるし、気分はいらいらします。だからこそ「対人関係に気を付けろ」と自分に言い聞かせているのだそうです。
「月経1週間前から、そして月経中も気持ちが不安定になり、いらいらするし、泣きたくなる」という中学3年生が受診しました。彼女は「生理前になると、店で万引きしたくなる」と言います。病気がちな母親は彼女が幼稚園のころから入退院を繰り返し、父親には前に学校を休んできつくしかられたことから、「だれにも相談できない」と漏らします。彼女は一人っ子ですし、何でも話せる友人もいないようです。
そんな彼女の前に、3ヶ月前にテレホンクラブで知り合った、いろいろ話を聞いてくれる24歳の男性が現れました。週3、4回の割合で、深夜に2、3時間ぐらい電話でおしゃべりします。私が「男の人って下心があるかもしれないよ」と言ったら、「何回も誘われたけど、怖くて行かなかった」との返事にほっとする一方で、家庭でひとたびトラブルなどが起きれば即刻飛び出すかもしれないと、老婆心ながら心配してしまいました。
「月経前症候群」は疾患の名前ではなくて、さまざまな症状を伴う不快な状態、つまり「症候群」なのです。これといった治療法も確立していません。医療に救いを求めるよりも、まずは「いかにセルフケアに努めるか」が賢明な対処法です。