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エッセイ集

思春期外来「揺れる体と心」

(平成11年10月4日から毎週月曜 河北新報にて連載 全10回)

(3) 日常生活に支障を来す 月経がつらい

 朝、外来に行くと、待合室で毛布にくるまった若い患者が寝ていました。そのわきに家族が心配そうに付き添っていました。「どうしたの?」と看護婦に尋ねると、「先生、大丈夫です。『生理痛』ですから」との返事がありました。医療現場ではよく見かける光景です。 

 当たり前の出来事、月経のたびに苦痛で悩む、いわゆる「月経困難症」の女子は意外と多いのです。特に思春期女子では20〜40%もいるとも言われます。私が診た思春期の患者もここ10数年で、4、5倍にも増えました。月経で苦しんでいる中・高校生がいかに多いことか。何度も学校の保健室に駆け込んだ経験を持つ患者が多いのには驚かされます。
 月経困難症は、「下腹部痛や腰痛のほか、頭痛、吐き気、おう吐、下痢、めまい、いらいら感などを伴い、日常生活に支障を来す場合」を言います。月経困難症の患者は、月経血中にプロスタグランディン(PG)という物質が普通の人より高い濃度で存在しています。このため、月経血を押し出すための子宮収縮が強すぎて、痛みを強く感じてしまうのです。さらにPGが血中に入り、さまざまな全身症状を引き起こします。

 特に思春期では、子宮がまだ十分発育していないために経血がスムーズにいきません。さらに精神的にも未熟なために月経への不安や強い緊張感などが症状を加重しているのです。これらは「機能性月経困難症」と言われ、特別の疾患があって起こるものではありません。

 しかし一方で、最近は思春期女子でも症状の原因となる疾患が見つかることも時々あるのです。もはや「『生理痛』だから…」と軽視できなくなってきたのです。

 月経痛を訴えて高校1年生が受診しました。月経困難症として経過観察していましたが、その2年後から左卵巣の腫(は)れが次第に大きくなって、大学2年生のときに子宮内膜症と診断されました。ホルモン療法を開始しましたが、次第にその効果も限界に達し、その2年後、腹腔(くう)鏡手術で卵巣の腫れを摘出しました。月経痛が子宮内膜症の初期症状だったのです。おそらく結婚までの道のりが長い彼女にとって、不妊症に発展するかもしれない子宮内膜症は、これから先、あまりにも重すぎる課題です。

 従来、子宮内膜症は大人の病気と思われてきましたが、最近では、思春期の患者にも時々見つかるようになってきました。心は未熟でも、体は大人が顔負けするほどの中・高校生をたくさん目にする昨今です。こうした病気が思春期に見つかっても不思議ではないのでしょう。
 体の早熟化が進み、高学歴志向や女性の社会進出によって結婚までの道のりが一層長くなってきました。本来は「生殖」のために備わった性機能ですが、その能力を守り続けることは簡単ではなくなってきました。

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