(平成11年10月4日から毎週月曜 河北新報にて連載 全10回)
まだ幼さの残る小柄な高校3年生が来院しました。問診票の「受診理由」には「まだ月経がない」の項目に印をつけていました。性機能の発達が遅れているのかと思って尋ねたところ、「彼に受診を勧められ、彼はいま外で待っている」と言います。医療現場で最も悩まされる「思春期妊娠」でした。
今後について話し合うために、診察室に彼を呼んでもらいました。「今回の妊娠は予想していた」と話す彼女ですが、「どうしますか」と尋ねた途端に泣き出してしまいました。彼はわきで「おろそうと思う」と言います。
話し合った結果、どちらの両親にも相談できないながら、彼女の姉に力になってもらうことになりました。後日、社会人の姉に借金して「妊娠中絶手術」を受けました。
日本では現在、20歳未満の人工妊娠中絶手術が年間3万件も報告されています。増加が目立ってきたのは1980年代以降で、ここ4年ほどは増加に拍車がかかっています。「高校生の性交経験率がさらに増加、女子が男子を上回る」という東京都幼少中高性教育研究会の最新報告も衝撃的でした。
性の開放は止め難い流れであり、もはや「10代の性的人権を認めるか否か」などと議論している場合ではありません。性産業が繁栄し、ポルノ文化がはんらんする劣悪な社会環境が、子どもたちの性的発達に悪影響を与えていることは明らかです。
こうした環境に生きる若者を救うには、性交はもちろん、その先にある妊娠、中絶か出産か、その責任問題までを、大人たちがちゅうちょせずに、当たり前のこととして教えるべきです。性とは本来、快感の側面が強く、男と女の関係なのですから。
先ごろ受診した高校3年生の話です。彼女は月経が1週間遅れ、3日前に市販の妊娠判定試薬で「妊娠」を確認しました。予想外の妊娠でしたが、卒業も間近なので「産みたい」気持ちになり、彼と相談しました。彼女の気持ちを尊重した彼も大学受験をあきらめ、働くことにしました。彼女は「母は分かってくれるかもしれないが、父は厳しい人なので勘当されるかもしれない。おろせなくなる22週をすぎるまでは言わないつもり」と言います。二人で彼の両親に会いに行きました。
二人が再び来院したのは、その日の夕方でした。彼女は「彼の親に諭されておろすことにした。頭では納得したが、気持ちがついていかない」と言うなり、泣きだしてしまいました。彼が「手術代は親に出してもらう」と言うと、「頼りたくない」と彼女。結局数日後、中絶手術を受けるために二人で来院しました。
「何よりも交際開始から性交までが早い、しかし避妊の知識や実行力に乏しい」。これが最近の若者の特徴です。思春期妊娠の多くは、5ヶ月以下の短い交際期間で妊娠しています。初めて性体験する彼との間で妊娠するケースも目立ちます。救いは、彼に頼った避妊法で妊娠してしまった後、二人で何とかしようとする姿勢です。
性でつまずくことがあっても、若者の未来は輝いてほしいと願わずにはいられません。