(平成11年10月4日から毎週月曜 河北新報にて連載 全10回)
最近、あるテレビ番組で10代の若者にまん延する性感染症の危機的な状況が取り上げられ、話題を呼びました。私の小さなクリニックにも連日、性感染症が心配される患者が多数訪れます。
高校2年生が友人と連れ立って来院しました。元気いっぱいの二人は診察を待つ間も、おしゃべりに興じ、ほかの患者さんから「うるさい」と注意を受けるほどでした。
「彼が病気を持っているようだ。『ペニスが痛い』と言っている。自分も10日ほど前から子宮が痛む」との訴えでした。診察すると、膣(ちつ)の中と子宮の入り口の頚(けい)管に膿状(うみじょう)のおりものが多量にありました。
診断は予想通り、クラミジア・トラコマチス(以下クラミジアと略す)感染症でした。彼女は中学3年のとき、初めて性交を体験し、今の彼は3人目です。しかし、2人目の彼ともまだ交際を続けています。彼女の結果を聞いて、同伴の友人も自分のことが心配になり、急きょ診察を希望しました。検査の結果、彼女もクラミジア感染症でした。
「エイズ問題」をきっかけに、性感染症はいっとき激減しましたが、最近は再び増加に転じ、ここ1,2年で急激に増えています。男女ともにクラミジア感染症が最も多く、淋(りん)病の増加も目立ちます。特にクラミジア感染症では、10代、20代の未婚女性の感染者が、男性を大きく引き離して急増しています。
クラミジア感染症は、女性では子宮の入り口(頚管)から感染し、子宮内、卵管、骨盤内へと炎症が進み、さらに上腹部、肝臓周囲へと広がります。おりものの異常、不正出血、かゆみ、排尿時の痛み、下腹痛などを訴えて来院します。
しかし、自覚症状がない人も多いため、病気のまん延が危ぐされるのです。女性では、子宮外妊娠、不妊症、流・早産、生まれた子どもへの感染といった問題へと波及し、日本の将来がとても心配になってきます。
以前出会った高校3年生の患者の話です。彼女は別の病院で人工妊娠中絶手術を受けましたが、1週間たっても妊娠反応が消えず、来院しました。手術を担当した医師からは「子宮外妊娠の可能性もある」と言われたそうです。
診察すると、超音波検査で骨盤腔(くう)内に血液あるいは腹水か、と思われる貯留液が観察されました。2,3日後、発熱と激しい下腹部痛が発症し、骨盤腹膜炎で入院しました。実は彼女、クラミジアに感染していました。自覚症状がないまま潜伏していたクラミジア感染が、手術の影響で顕在化したのです。
彼女は15歳からそれまでに、10人ぐらいと性交を繰り返していましたが、ようやく現在の彼とは長続きする付き合いができるようになった、そう考えていた矢先の妊娠でした。妊娠中絶手術に性感染症という度重なる心身の痛手は、さまよえる青春の日々の結果とはいえ、彼女にとって、あまりに重い代償でした。
性開放が進んだ今日、性行動に伴って生じる弊害を最も強く受けているのは、未成熟な若者、特に女子であることを肝に銘じなければならないのでしょう。