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エッセイ集

思春期外来「揺れる体と心」

(平成11年10月4日から毎週月曜 河北新報にて連載 全10回)

(10) 責任考え自己形成図れ 性の人権

 先日、高校生の妊娠をテーマにした劇を見た後で話し合う会に参加しました。「高校生の妊娠という話は珍しいのではないか」。その場で大人側からこんな声が出たように、大人の意識と若者の実態の間には大きなずれがあります。それこそが性をめぐる今日の問題なのです。

 「生理痛がひどい」と言って、予備校生が受診しました。痛みは最近、特にひどくなったし、月経前から下腹部痛があると訴えます。時折、不正出血もあるとのこと。診察の結果はクラミジア感染症で、その炎症のために月経前や月経中の症状が強まったのでした。本人には説明し、薬を処方しました。患者さんのプライバシーに関することなので、待合室にいた母親には伝えませんでした。
 彼女を紹介してきたかかりつけの外科医には医学的に詳細な返事を出しました。数日後、その外科医から電話があり、「二人からは大したことなかったとの報告だったので、感染の事実を知って驚いた。早速、母親を呼んで報告したところ大騒ぎになった」とのことでした。
 「最近は性的人権への配慮も必要なので難しいんです」と外科医に話すと、「未成年なのですから母親にもきちんと伝えてください」と言われました。

 「10代の性的人権を認めるかどうか」。この問い掛けは国際的にも議論が尽くされ、性教育の理念としてはおおむね認める方向で定着しつつあります。性に伴う喜びは成人の男女に限らず、すべての男女に与えられた権利です。当然、思春期、10代の若者のセクシュアリティーも尊重されなければなりません。
 しかし、性は生殖の仕組みであり、性行動の先には性交に伴って起こる妊娠の問題があります。性は権利であると同時に、社会的な責任能力も問われてきます。社会的にも精神的にも未成熟な10代の若者に十分な責任能力はないでしょう。でもそれを盾に、彼らのセクシュアリティーを規制する力を、今日の社会は、そして大人は果たして持ち合わせているのでしょうか。
 劣悪な性が取り巻く社会環境、性愛の見本を示してこれなかったという大人側の負い目、いまだに性教育に自身が持てないなど、もろもろの要因が、早熟な性行動と深く関連しています。われわれはまず、彼らの性行動を認め、敢然と社会的責任も要求しながら支援も惜しまない、そんな関係をつくることが大切です。彼らのたくましさ、自己形成能力を信じたいですから。

 数ヶ月も前から記録された基礎体温表を持参し、月経の不調を訴えて受診した高校3年生がいました。そのまめさに驚く一方で、恋人の存在を察しました。彼女は受験勉強と交際を両立させるために、避妊目的で基礎体温を測っていたのでした。
 私は医師として、これからも目の前にいる患者さんの利益を第一に考え、彼らの力になっていきたいと思います。

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