(平成12年 11月9日)
平均初婚年齢が年々上昇し、女性がシングルで過ごす時間が長くなってきました。昨年6月には「男女共同参画社会基本法」が施工されました。これからの社会は、女性も自立した一個人として責任をもって社会に貢献していかなければならない、21世紀はそういう時代になっていくのでしょう。
医師になって30年が過ぎ、時代の流れ、女性の生き方の変遷をしみじみと感じます。産婦人科の医療現場からは、女性が容易に妊娠・出産を望まなくなったこと、しかし長い未婚時代は性的に早熟かつ活発であるということ・・・、女性のセクシュアリティの大きな変化、画期的とも言える「性の生き方の路線変更」が見えてきます。
性は元来「生殖」のためのしくみであり、女性のからだの基本的特徴は、生殖すなわち妊娠することのできる機能をもっていることです。科学・避妊法の発達によって、生殖と性的コミュニケーションを分離できるようになってきました。性的にも豊かな社会になれる条件が整ってきたことはとてもうれしいことです。しかし、医療現場では、相変わらずの人工妊娠中絶、性感染症の爆発的増加・・・、女性の性の健康は今日危機的状況にあると言っても過言ではありません。また一方で,身体的性成熟の早発化、長い未婚時代を月経を流し続け卵巣に過度の負担を強い続けていることで、子宮内膜症の増加など新たな問題も起こっています。将来の女性の生殖能力は大丈夫か、とても心配になります。心から妊娠・出産を望んだときに、その可能性が開けるのか、それはそれまでの性の健康があってのことです。
女性の生き方が多様化し、女性も自己実現できるチャンスが多くなり、かつそのことが今日社会・時代の要請でもあります。女性の権利が拡大したことで、女性の責任も大きくなってきました。責任が問われることの一つの柱は、自らの健康に対する責任、管理能力だろうと思います。豊かな社会、一人一人の個性が生かされる成熟した人間社会の実現のために、性的存在としての人間の本来的土台に対する見直しが求められています。