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エッセイ集

女性のオーガズム

(平成15年1月1日発行「健康」に掲載)

「女性は経験を重ねることでオーガズムを学んでいく。欲望に正直になって積極的に性を楽しみたい。」

自分の欲望を言葉にして相手に伝える関係を持つ

 「中高年の性」とひと言でいっても、いわゆる性生活のみを突出して取り上げることはできません。性生活も社会とのかかわりを含めて考える必要があると思うからです。  私は豊かな性を愉しむには、それを獲得するだけの努力が必要だと考えています。ところが、いまの中高年の夫婦で本音で性に向き合う場面を、それも意識的につくっている夫婦はとても少数です。日本社会は歴史的に性と正面から向き合ってこなかったという負い目もあります。日本人は「性」と向き合う努力をしてこなかったのです。
 求める夫と逃げる妻(その逆もある)、そんな笑えない構図はまさにコミュニケーション不足から生まれる問題です。豊かなセックスをするためには自分自身を裸にすることがたいせつです。本音を伝え、また相手がその本音を受け止める度量が必要とされます。
 ところが、日本ではセックスの場面にも、女性に奉仕を求める男性社会がストレートに反映されています。また、男性の性はアクティブな性で、欲求も女性より強く先走りしやすい性質があります。
 その結果、どんどん女性はおいてきぼりにされ、夫婦の性が育ちません。そのようなセックスは女性側から見ると主体性がなく、なかなか性が成熟しないのです。何よりもいつも相手に合わせて、リードされて、そんな受身のセックスが楽しいと思えるはずがありません。

男女の性のメカニズムを理解することがたいせつ

 男性にオーガズムがあるように、女性にもオーガズムがあります。ただ、男性が簡単に体験できるのに対し、女性がオーガズムを楽しむためには体が開発されなければなりません。「男は体から入って精神で満足する、女は精神から入って体で満足する」ともいわれます。オーガズムがわかってくると女性のほうが性的欲求は強いかもしれません。女性の性は経験的に欲求が高まり、知っていくという立場です。ですから、パートナーとセックスをたいせつにし、ともに充足する、という共有財産を作っていけば身体的に衰えたときでもセックスと向き合うことができるはずなのです。
 ところが残念なことに、いまの日本は男女の性ということに無知すぎるきらいがあります。セックスの仕組み、体の中に起こる反応が男女でどう違うのか、そういうサイエンスを知ることは2人の間の性を高めるためにとてもたいせつです。
 40代になると女性も「私の人生、このままでいいのだろうか?」などと悩む機会が増加します。そこで初めて性欲を自覚できるようになるケースもあります。
 ところが、男性はその妻の変化に気がつきません。自分は外で働いて稼いで帰ってきているのだから、妻がセックスを受け入れるのは当然のことといわんばかりです。
 私はこういう話を聞いたことがあります。酔って帰ってきた夫が妻の都合も考えず強引にセックスをしようとしたときにその夫は「時間はとらせぬ」といったそうです。
 妻にとってこの言葉は屈辱です。いかに男性が女性の性を大事にしていないかがうかがえます。

同じ土俵で相撲をとれる関係が理想

 本来セックスとは、2人で時間を過ごすなかで気持ちが高揚し、上り詰めていくものだと思います。じゃれ合っていくうちに、まず気持ちが高ぶり徐々に体が反応していくのはとても自然なことです。
 相手に与える喜びを感じとって、最終的に自分が勝利者になれるかどうか、私はこれこそがセックスの醍醐味だと思います。そのためには同じ土俵に立って相撲をとる関係にならなければなりません。
 ようやく最近、日本でも夫婦で散歩をしたり、旅行したりする姿が目につくようになりました。夫婦であっても恋人のように2人だけで向き合える場所を作ることは、より豊かな性生活のためには重要なことです。そして、その日常の努力の積み重ねがいつまでも若々しさを維持する秘訣ではないでしょうか。
 年をとることはこわいことではありません。年をとっていくことはある意味すばらしいことです。人の痛みがわかって、心にたくさんの財産をもつことで、人にやさしくできる人間になれるからです。
 性に関しても同じです。中高年ならではのやさしく、お互いをいたわる性生活を築き、日常を豊かにしてほしいと思います。

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