(平成14年7月15日発行 sexuality NO.5に掲載)
患者に「いま付き合っている人がいますか」と聞けば「いません」言う。「最後にセックスがあったのはいつですか」と聞くと「5日前です」との返事が返ってくる。彼女にとって、付き合っている人は恋人なのですが、セックスする人は他にもいるのです。問診で若者の性行動の実態を聞き出すことの大変さを思い知ったことをきっかけに、STD患者にアンケート調査をした。
彼女たちはパートナー以外の人ともいくらでもセックスしており、0人と無回答はわずか2割程度であり、それらを除いて約半数は5人以上と答えた(図3)。性の自由・開放度は予想以上であり、STDが増え続ける背景の深刻さを思い知らされる。そんな者同士では、感染したことの悔しさをどこにもぶつけられない、とても悲しい時代である。
最近は、「性病」が心配、検査してほしいと言って来院する若者が多くなってきた。「彼がクラミジア、淋病だった」と言って来院する患者ではかなりの確率で感染が見つかる。テレビ、雑誌などメディア側からの情報もさることながら、身近なところで感染者が多くなっており、友人・仲間同士の情報交換が進んでいる.彼女たちの7割は「友人とSTDについて話題にする」と答えているのである。 しかしながら、パートナーとの関係ではまだまだ心もとない状況である。受診に際しての相談相手は、友人が多く、次いでパートナーであり、一方で母親に相談した者もいたのには予想外の結果であった(図4)。また、相手が受診した者は約半数であった。事実なかなかパートナーが受診してくれないと悩んでいる患者は多い。
前回紹介した妊娠中絶後のアンケートでも、彼女たちの7割近くが、STD予防にコンドームが必要と答えていたにもかかわらず、実際コンドームをいつも使用していた者は3割程度であった。女性が男性に要求できない、というよりも要求しようとの意志もいまだ曖昧なまま、結果的にはコンドームを使わない男性を安易に受け入れてしまっている。それは彼らがSTDの知識、正しい情報に乏しく、その怖さ、深刻さに思い至らないという問題も大きい。外見的には男女平等が浸透しつつあるかと見える若者が目につく昨今ではあっても、男女の基本、性の場面では相変わらずの不平等・非対等性、ジェンダーバイアスが厳然と支配しているのである。STDが減少する兆しはいっこうに見えてきそうにない。
「先週の検査の結果、クラミジアに感染していました。この病気知っていましたか?」「はい、名前は知っています・・・この病気はどこから感染したのですか?」「セックスでうつったのです」「いつうつったのですか」「分かりません。セックスしたのは彼だけではないですよね。とにかく二人で治しましょうね」・・・(一週間後)「彼は病院にいきましたか?」「まだ行っていません。仕事の休みが取れないと言うのです」・・・(更に一週間後)「彼は病院に行きましたか?」「まだです。必ず行かせます。」・・・女性も優しく、なかなか辛抱強い。若者たちはこうした付き合い、経験を通して、私たち大人世代とは違った新たな男女関係を形成しつつあるのかもしれません。とは言え、STDはいまだ増え続けているのです。