(平成14年7月15日発行 sexuality NO.5に掲載)
クリニック開設以来、性感染症(Sexually Transmitted Disease:STD)の患者は止まるところを知らず増え続けている。毎日検査伝票をチェックしていて、クラミジア陽性者がいない日はとても珍しい。時に4〜5人もいることもある。日本の将来はこの先どうなってしまうのかと暗澹とした思いになる。どうして感染したのか、どんな感染症か、どんな治療が必要か、今後の予防策は?・・・一人一人の患者を前に、語りかけることの多さにどっと疲れを感じてしまう。そんな自分が腹ただしくも忙しい日々は容赦なく過ぎていく。
今最も注目されているSTD、クラミジア感染症について、クリニックのデータを紹介する。当院での検査システムが定まった平成12年3月以降について集計したが、クラミジア患者の増加は明らかである(図1)。平成11年3月からの1年間とそれ以降では約1.6倍の増加である。月平均16人と厚生労働省の感染症サーベーランス委員会の報告、1定点あたりの患者数と比較しても7〜9倍であり、全国平均を大きく上回っている。
私は、かつて仙台市立病院に勤務していた当時、クラミジア感染のために入院となったたくさんの患者さんに出会った。その時実感したクラミジア感染症の怖さは今でも記憶に生々しい。生理痛のために通院していた高校生が、生理痛がひどくなったと言って通院を繰り返すうちに、急にお腹が膨らみ多量の腹水がたまってきた。卵巣癌でも見逃したのかと医師として慄然としたのだが、実は彼女はクラミジアに感染したために腹膜炎を起こしたのだった。また卵巣腫瘍と診断した患者が、手術の結果、クラミジア感染のため巨大に腫脹した卵管水腫であった。しかし彼女は過去にこれといった自覚症状の経過もなく、たまたま月経が長引いたとのことで来院したのである。また他院で人工妊娠手術を受けた後、急性腹膜炎で入院した高校生、子宮外妊娠の手術の際にクラミジア感染が見つかった新婚の女性、妊娠中に急にお腹が痛くなって切迫流産で入院した女性・・・クラミジア感染例を上げればきりがない。
クラミジア感染は診断できれば治療は大して手間取ることはない。ほとんどは2〜3週間の服薬で治る。しかし、治療の時点でクラミジアの病態がどこまで進行していたかはお腹の中を見ない限り推測の域をでないのである。女性では5人に1人しか自覚症状はがないと言われ、しかも症状の有無、強さは病態のレベルを必ずしも反映しないのである。もちろん患者を目の前にして、不安にさせるだけのそんな深刻な話など決して言えるものではない。