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エッセイ集

クリニックにみる若者の性

(平成14年7月15日発行 sexuality NO.5に掲載)

(5) 男と女、愛の行方

 医療の第一線に身を置いてみると、日本における性開放が予想以上の早さで浸透している様が実感できる。「結婚」という人間社会の性の規制・管理機構に一線を画しつつ、若者の性は今怒濤の如く元気いっぱいである。妊娠中絶手術を受けることになっても、また一方ではSTDに感染しても、彼女たちはなぜか彼に向かって怒りを爆発させることはない。彼がコンドームを使ってくれなくても、中絶費用を出せなくても、彼女たちはその現実を受け入れていく。彼の愛を頼りに二人の世界・快感の腜になっていく。自意識・自尊感情のあまりに欠落したかに見える彼女たちに性の自立・男女の共生、リプロダクティブヘルス・ライツへの意識をいかに伝えていったらいいのか、考えあぐねる日々である。
 女性の対極にいる男性側の性意識、避妊への取り組み.・・は実際どうなのか?男性側の状況をきちんと知るべきと考え、当クリニックで人工妊娠中絶手術を受けた10代、20代前半(20〜24歳)の女性のパートナー(85名)に対してもアンケート調査を行った。

避妊しなければと思っていたが・・

 「避妊を意識していたか」の問いに、女性ほどではないが、63.5%のかなりの者が「はい」と答えていた。しかしながら「いつも」避妊を実行していた者は24.7%と少数であり、「ときどき」が28.2%、「しなかった」が47.1%であった。さらに「避妊について不安だったか」の質問には、15.5%が「いつも」、41.7%が「ときどき」と答えていた。避妊への取り組みは不徹底、いい加減だったにも拘わらず、その失敗への不安意識はあまりに曖昧なものであった。

コンドームも膣外射精も信じられないのに

 「いつも、ときどき避妊していた」と答えた者の避妊法は予想どおりコンドームか膣外射精、その併用であったが、それぞれの避妊効果については興味深い結果であった。コンドームの避妊効果は90%以上、一部100%と過信している者がいる一方で、80〜89%、80%以下とばらつきが大きかった(図1)。膣外射精は90%以上と答えた者が極少数いたが、大半の者は避妊法としての評価は極めて低かった。彼も避妊について決して安心している訳ではない、しかしながら、避妊の意味、妊娠のリスク・・を十分熟慮、自覚できないまま、不確かな気持のまま彼女とセックスしてしまっている。

コンドームの避妊効果
妊娠危険日もコンドームの正しい使い方も知らないで

 女性の月経周期のなかで妊娠の危険のある日、避妊の必要な期間についての問いに正解者は6%のみであり、圧倒的多数が不正解者であった。また、コンドームの装着時期について、「挿入する時」と答えた者が、約6割を占めていた(図2)。コンドームをいつも使う者が少ないにもかかわらず、しかもそれが正しく使われてないという憂うべき状況にある。

コンドームの装着時期
ピルは薦められないが、相手が望むなら

 「ピルについては知っているか」の問いに、「知っている」7.8%、「大体知っている」26.2%、「名前だけ知っている」50.0%との結果であり、ピルを理解する者はいまだ少ない現状にある。ピルを薦める者は11.8%と少数であり、「反対」が31.8%と多かったが、一方で「相手次第」が最も多く52.9%であり(図3)、男性側の避妊に対する取り組みの消極性、相手まかせの姿勢を浮き彫りにした。

パートナーのピル使用をどう考えるか
今後について二人で話し合ったが・・・

 今後の避妊について、彼らの多く(75.3%)が当然のことながら「不安」と答えていた。そして、「今後について話し合った」(71.8%)と答えており、中絶手術後、避妊に失敗したという現実に彼らは何らかの形で二人で向き合ってはいた。しかしながら、そこで彼らがお互いに何を問い、どんな話し合いをしたのかがとても案じられるのである。これからが正に正念場でありながらも、術後二人で来院する者は未だ少ない。「術後指導を二人で受けたい」と答えた者は17.6% に過ぎず、「どちらともいえない」35.3%、「希望しない」42.4% であった(図4)。しかしこの結果は、見方を変えれば「希望しない」を除いて男性側もその約半数は何らかの支援を求めていると見て取ることができる。このことは、今後若者への健康支援のあり方を考える上でとても重要である。

術後指導を二人で受けたいか

 今回で4回目になるクリニックからのレポートである。女性側からだけではなく、男性側の性の現状にスポットを当ててみると、今の若者の性、男女の関わり方が一層見えてくる。性の知識、避妊の取り組みも男女双方あまりに貧弱であり、男女間に大きな違いはない。お互い寄り添い、同じ目線で向き合っているかに見える仲良しカップルである。男女間の不平等、ジェンダーバイアスも難なく乗り越えていくのだろうかと見間違えるほどである。心情的、感情的には男女がかなり近い距離にいる。しかし一方で、妊娠中絶の増加、STD増加・蔓延という問題は一層深刻であり、それは特に女性にハンディが大きいという男女間の本質的、決定的違い、男女間に打ち込まれた楔を見逃すわけにはいかない。 今後幾多のハードルを乗り越えなければ、彼らの愛が人間として高められることはあり得まい。しかし今、その一歩を進めるために心許ない彼女、そして二人に向けて支援の方策を考えていかねばと思う。妊に対する取り組みの消極性、相手まかせの姿勢を浮き彫りにした。

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