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エッセイ集

論壇

(平成18年1月28日から河北新報「論壇」に掲載 全6回)

(5) 性と出産の権利/社会の支援保障不可欠

 リプロダクティブ・ヘルス/ライツを知る人はいまだ少ない。それは1994年国連主催の国際人口開発会議(カイロ会議)でコンセンサスを得た概念である。日本では「性と生殖のための健康と権利」と訳されているが、「女性の健康と権利」と言ってもいい。
 女性が自分のからだを自らの責任で管理し、安全で満足の性生活ができ、妊娠できる可能性を持ち、産むかどうかを決めることができ、そうした自由が尊重されることである。そのためにはパートナーとのよい関係を築くことができ、そうしたすべての過程を社会が保証していくことである。
 一人一人の責任ある健康管理が、社会を救い、結果的には地球規模で社会を変えることができるということである。
 今、女性のリプロダクティブ・ヘルスは深刻な状況にある。妊娠を望んだときに妊娠しない・できない不妊症の問題が顕著になっている。
 「65人に1人『体外受精』で誕生、高齢出産も影響」(2005年9月14日読売新聞)は衝撃的な記事だった。日本産婦人科学会(武谷雄二理事長)の調査で明らかになった。調査したのは、同学会に体外受精の実施登録施設として届け出ている590施設。それによると、03年の体外受精による出生児数は1万7400人と、前年より2177人増加した。全出生数(112万3610人)に占める割合は1.5%で、この年に生まれた65人の赤ちゃんのうち1人が体外受精児になる計算だ。
 体外受精に頼らざるを得ない不妊夫婦が予想を超えて増えてきたということだ。不妊夫婦は、最近では7組に1組(従来は10組に1組)とも言われている。
 近年の加速する性開放、性行動の低年齢化の進行、未婚期間の延長、女性の社会参加に伴う晩婚化など、女性の性意識、ライフスタイルの急速な変化を背景に不妊症は大きな社会的問題となってきた。妊娠・出産が先送りされることはやむを得ないこととはいえ、それが個々人の生き方を基本から大きく軌道修正していくことになり、ひいては日本社会の未来にかかわっていくのである。 私のクリニックでは、20代の患者のうち、5割は下りものの異常を訴えての来院で、うち2割が性感染症であった。また2割が月経不順・無月経などの月経異常、2割が月経痛や子宮内膜症であり、1割が望まない妊娠であった。これらはすべて不妊症につながる疾患である。
 日本女性の疾病構造が変わり、子宮内膜症が増加し、子宮筋腫が若年化した。2、30代の子宮頸(けい)がん罹患(りかん)率が増加し、昨年からは行政が行う子宮がん検診の開始対象年齢が20歳に引き下げられた。
 筆者自身は性の健康、リプロダクティブ・ヘルスなど全く考えもしなかったが、幸い20代で2児の母親となることができた。そういう時代だったと思う。
 日本女性の疾病構造が変わり、子宮内膜症が増加し、子宮筋腫が若年化した。2、30代の子宮頸(けい)がん罹患(りかん)率が増加し、昨年からは行政が行う子宮がん検診の開始対象年齢が20歳に引き下げられた。
 筆者自身は性の健康、リプロダクティブ・ヘルスなど全く考えもしなかったが、幸い20代で2児の母親となることができた。そういう時代だったと思う。近年、社会通念の拘束力が緩み、女性の生き方も多様化し、結婚、妊娠・出産も選択して生きられる社会となった。しかしその代償として、女性であることの根幹にある妊娠できる能力が侵食されている。性の健康は自らの責任で守り、管理していかなければならない時代となった。それ故にこそ、それを支援し、保証するための社会システムの整備・充実は不可欠である。まさにリプロダクティブ・ヘルス/ライツを現実のものにしていく社会の在り方が問われている。

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