(平成15年7月12日から毎週土曜「赤旗」にて連載 全6回)
人工妊娠中絶手術をうけた患者さんから電話があった。「大学を休んだので診断書を書いてほしい。中絶手術のことを書かないでほしい」との注文である。「偽の診断書は書けませんよ」と言うと、「困ります」との悲痛な声で訴える。すったもんだのやりとりの後で、「医療の必要があって受診したと書きますから、もしなぜかと聞かれたら、個人的なことですのでお答えできませんと毅然と言ったらいいでしょう」とアドバイスした。「ああそうか、分りました」と一件落着した。
今日若者の性は一層日常化しており、彼らの性の権利の行使はいまや10代から既成事実化している。しかし教育、職場など社会の多くの場面では、いまだプライバシーへの配慮もなく、従来の社会通念の下で運営されている。妊娠中絶の際、高校生では約8割が親に知らせず、仕事を持つ女性でも職場に知られないよう策を労しているのである。
1994年のカイロ世界人口会議、翌年の北京世界女性会議をへて、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖の健康と権利)は国際的コンセンサスを得、日本も「行動綱領」に採択し、若者の性的人権は基本的合意に達した。日本保護産婦人科医会も、近未来の思想の転換を考慮し提言案を発表し、「人工妊娠中絶手術は、妊娠12週未満では女性本人の同意だけで足りる、15歳未満の場合には親権者の同意を必要とする」とした。
残念なことに最近全国規模で陰湿、熾烈なバックラッシュが吹き荒れている。当地でも男女平等実現のための条例からリプロダクティブヘルス/ライツやジェンダーの表現が消され、また「ラブ&ボディ」の啓発パンフレットが教育現場から突然回収された。
性は生きることそのもの、人間の魂・中軸に位置し、その健康はその権利と表裏一体である。そうした流れ、社会の実現はいまや地球規模であり、歴史の必然なのである。