(平成18年1月28日から河北新報「論壇」に掲載 全6回)
今、「健康」は官民双方の重大な関心事の一つだ。今世紀に入り「健康日本21」「健やか親子21」など、行政主導の一大国民運動計画がスタートした。健康センターやスポーツジムが繁栄し、ちまたにはサプリメント、健康器具、民間療法があふれ、異常なまでの健康ブームになっている。国民の健康への関心はまっとうではあっても、一方ではIT・マスメディアによる過剰情報の影響も大きく、「健康脅迫症」的様相すら呈している。クリニックを受診する患者さんの医療に対する視線、要求・期待もかつてなく強まり、また多様化している。健康チェック・健康相談のウエートが増加し、病・医院の診療領域をはるかに超えている。従来の医療サイドペースの診断・治療の流れの中では、到底対応できない現況にある。以前から病気に付随した相談は、医師・看護師らによって随時取り組まれてきた。しかし、今日の病気への不安・予防など生活全般に及ぶ健康相談の需要には対応できる状況にない。
日本の診療報酬体系では、保健予防や健康相談業務は評価の対象ではない。制度化されるためには、マンパワー、相談スキルの習得、医療経営問題、システムなど、今後検討されなければならない課題も少なくない。
2003年度から、厚生労働省の母子保健関連の委託研究の一つ「妊娠について悩んでいる者に対する相談援助事業」が開始された。本事業の目的は、妊娠について悩んでいる者に対し、医学的、精神的および社会的な問題から相談・援助をするものだ。
私のクリニックも本事業に参加、「健康相談室」「メール相談」(無料)を開設した。相談内容は月経異常、妊娠、中絶、避妊、性感染症に関するものが多い。加速化する性開放を背景に、性と生殖にかかわる健康への関心・不安が広がっている。相談室利用者の6割は、当院の医師・看護師からの案内だ。メール相談の件数も日々増加し、スタッフによる返信は重要な業務の一部となり、時には休憩時間・診療時間外にも及んでいる。
国民の病気を予防する健康意識・生活の質(QOL)志向の高まりがある今日、その流れをしっかり受け止め定着させなければならない。それは医療界の「治療医学偏重」から「予防医学重視」の考えにも合致するものだ。健康をつくるための強力な支援者として、医療機関が担う役割は大きい。安心して相談ができ、必要があれば治療へと直結できる、病気・治療の現場を担う病・医院での健康相談業務は最も効果的だ。
全国的にも健康にかかわる相談窓口が増えてきた。仙台にも行政、医療関係、民間団体・グループなどによる相談窓口がある。しかし、10指に満たず、多くは熱心なボランティアに支えられている。現在の医療では健康相談は保険診療の枠外であり、「相談料を徴収したら患者が来ない」のが現場の医師の実感だ。
「健康への関心を高め、病気を減らす」はまさに予防医学であり、「健康日本21」の目標でもあるだろう。医療機関における健康相談のシステム化とともに社会制度として定着させるよう切に望む。